児童虐待(じどうぎゃくたい、Child Abuse、Maltreatment、Cruelty to Children)は、子どもに対する虐待である。アメリカ疾病予防管理センターは「児童に実際の危害をあたえる、危害の可能性にさらす、または危害が及ぶという脅しをすることに帰着する、その児童の両親あるいは保護者による単発あるいは連続した行為または不作為」と定義する。
イギリスで1884年に、民間組織として児童虐待防止協会( Society for Prevention for Cruelty to Children)が設立され、その後、全国児童虐待防止協会( National Society for Prevention of Cruelty to Children)となる。1960年、フランスの歴史学者フィリップ・アリエスが『〈子供〉の誕生』(こどものたんじょう、仏: L'Enfant et la Vie familiale sous l' Ancien Regime)を発表する。1960年代にアメリカで医師ケンプが「被殴打児症候群(Battered Child Syndrome)」<被殴打児症候群の主な特徴> ≪・BCSはどの年齢でも生じ得るが、一般的に3歳以下であることが多い。 ・BCSの臨床的状態をもたらしたのは、たった一回のエピソードによる例もあるが、多くの場合子どもの健康状態は平均以下であり皮膚の不潔さ複数の軟部組織(筋など)の損傷、栄養不足など、ネグレクトの証拠を示す。 ・臨床所見と親が語った状況との問いにしばしば矛盾が見られる。 ・硬膜下血腫は非常にしばしばみられる。 ・様々な回復段階にある多数の骨折が見られる。≫ を指摘する。
日本では、2000年、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」を制定した後、2004年には同法を改正し、「関係省庁相互間その他関係機関および民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他」を行ない、児童虐待の防止等のために必要な体制の整備に努めなければならない旨を明文化する[1]。
[編集] 法的定義
日本では児童虐待防止法で、「保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう)がその監護する児童(18歳に満たない者)に対し、次に掲げる行為をすること」と定義し、以下の行為を列挙する(2条)。
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- 身体的虐待
- 児童の身体に痛みと苦痛が生じ、または外傷の生じるおそれのある暴行を加えること。例えば、一方的に暴力を振るう、殴る、蹴る、叩く(平手等)、外傷がなくとも継続的に痛みを与える、食事を与えない、冬は戸外に締め出す、部屋に閉じ込める。
- 性的虐待
- 児童に猥褻行為をすること、または児童を性的対象にしたり、猥褻なものを見せること。子供への性的暴力。自らの性器を見せたり、性交を見せ付けたり、強要すること。
- ネグレクト(育児放棄、監護放棄)
- 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、もしくは長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。例えば、病気になっても病院に受診させない、乳幼児を暑い日差しの当たる車内への放置、食事を与えない、下着など不潔なまま放置するなど。幼稚園、保育園、保育所、学校に通わせないなど。
- 心理的虐待
- 児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。心理的外傷は、児童の健全な発育を阻害し、場合によっては心的外傷後ストレス障害 (PTSD)やアダルトチルドレン など、重大な精神疾患 の症状を生ぜしめるため禁じられている。例えば、言葉による暴力、一方的な恫喝、無視や拒否、否定、自尊心を踏みにじるなど。
日本の児童虐待相談件数は統計開始の1990年が1101、2008年は37,323である[2]。ただしこの数値を実際に虐待が近年急増したととらえるのか、虐待の告発および発覚の件数が増えているだけで実際の虐待数と無関係と捉えるべきなのかで論争が存在し、九州保健福祉大学の大堂庄三は、「少なくともわが国では以前に比して子どもの虐待数は減少していると推測されるし、まして激増論などは根拠がないと考えている」とする[3]。
アメリカの「被虐待児童数」は約88万人(2000年)、ドイツ31,000人、フランス18,000人である[4]。 日本では、「平成18年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数は、37,323件」で、虐待内容は「身体的虐待が15,364件(41.2%)で最も多く、次いでネグレクトが14,365件(38.5%)」である[2]。
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虐待されていた児童の年齢は0 - 3未満が17.3%(6,449人)、3 - 学齢前児童が25.0%(9,334人)、小学生が38.8%(14,467人)、中学生が13.9%(5,201人)、高校生・その他が5.0%(1,872人)。性別では男児52.3%、女児47.7%で男児が若干多い[5]。ただし性的虐待では97.1%が女児で中高校生が65.0%[5]となり、傾向が異なる。
虐待をする者は、62.8%が実母、22.0%が実父、義父・義母は合わせて8.3%で[2]、6割近くが実母によるものである事が分かる。1999年の統計によれば、虐待をしているのは58.0%が実母、25.0%が実父であり、義父・義母は合わせて9.3%である(残りはその他)[5]。母の職業は3分の2が主婦・無職で、在宅型が多い[5]。虐待者の学歴は中卒が34.3%と最も多く、大卒は2.4%であり、性的虐待では、虐待者の9割近くが中卒である[5]。経済状況では52.5%が貧困層、普通は31.5%、裕福な層は2.6%である[5]。
自らも虐待を受けた者の割合については、統計により9.1% - 39.6%などとなる[6]。長谷川博一は、世代連鎖を断つことを理念として、1999年に親の治療グループ「親子連鎖を断つ会」を設立する[7]。
被虐待児が病院を受診し、虐待を受けたと思われた場合には担当でなくとも速やかに警察に通報する義務がある[8]。
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全国児童相談所長会が一時保護に親が同意しなかった614人の児童(平均年齢8.5歳)に対して調査した所、「「生命の危機がある」38人(6.2%)、継続的治療が必要な外傷があるなど「重度の虐待」158人(25.7%)、慢性的に暴力を受けるなど「中程度の虐待」254人(41.4%)」である[9]。同調査によると、虐待が開始されてから児童相談所が一時保護するまでの期間は、3年以上(146人、23.8%)、1年以上3年未満(124人、20.2%)、6か月以上1年未満(82人、13.4%)、1か月以上6か月未満(108人、17.6%)、1か月未満(104人、16.9%)、無回答(50人、8.1%)である[9]。
[編集] 心中以外
厚生労働省の平成20年度の統計によると、64例67人の児童が虐待死している[10]。死亡した児童の年齢は0才児が59.1%で最も多く、1歳児は14.1%で、死亡した児童の88.5%が0~5歳、同年の統計の最年長は16才[10]。
通常の虐待事例と同じく、加害者としては実母が最も多く[10]59.0%で、16.4%が実父である[10]。また望まない妊娠/計画していない妊娠が31.3%あり、10代の妊娠が22.4%である[10]。養育者については実父母が44.8%、一人親(未婚)が19.0%、内縁関係が15.5%であった(判明したもののみ集計)[10]。加害の動機については、「しつけのつもり」(22.7%)、「子どもの存在の拒否・否定」(11.9%)、「泣きやまないことにいらだったため」(11.4%)などがある(動機が判明しているもののみを集計)[10]。特殊なものとしては「保護を怠ったことによる死亡」が6.0%、代理ミュンヒハウゼン症候群が4.5%、妄想などの精神症状が3.0%である[10]。また揺さぶられ症候群による頭蓋内出血による死亡は平成18年1月から平成20年3月までの間で一件であった[10]。
なお、平成20年度の統計では「子どもの暴力などから身を守る」、「慢性の疾患や障害の苦しみから子どもを救おうという主観的意図」などの子供の側の要因による虐待死は一件もない[10]。
[編集] 心中
厚生労働省の平成20年度の統計によると、心中で死亡した児童は43例61人であった[10][11]死亡した児童の年齢については、心中以外の場合のような極端な方よりはないものの、0歳が11.7%、1歳が6.7%、2歳が3.3%、3歳が8.3%で、3歳以下が30.0%を占めている[10]。同年の統計の最年長は16才。主たる加害者の7割は実母で[10]、心中以外の事例よりも実母の割合が高い。
児童の虐待死のうち、事前に児童相談所に通報が無かったものは79.5%である[12]。
児童相談所が児童虐待をした保護者に改善指導している途中、保護者の転居により行方が分からなくなってしまった児童の数が2009年だけでも39人いる[13]。
虐待された子供の救済、保護を担当するのは、児童相談所であるが、特に緊急を要する場合は、警察がまず加害者である側から児童を引き離して保護し、しかる後に児童相談所に事態の収拾を預ける事もある。児童相談所では事案を調査し、親に対するアドバイスや援助を行ったり、児童に必要な医療措置を手配したり、必要な場合には、親権を剥奪したり児童養護施設に児童を収容したりすることもある。 2003年9月に厚生労働省は児童相談所を「児童虐待と非行問題を中心に対応する機関」とする。
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